産地のくらしごとと、暮らすひと。 vol.1 【体験レポート】 | RENEW 2025

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2025.12.16

産地のくらしごとと、暮らすひと。 vol.1 【体験レポート】

ー くらしごと参加者と、産地にくらす企業編 ー

 


※この記事は、2025年2月に執筆された記事です。

 

「産地のくらしごと2025」は、福井県越前鯖江エリアで開催されるお試し就業プログラム。ものづくりの仕事に正社員として挑戦したい人向けの「作り手就職版」(2025/3/10-3/13)と、複業や移住を考えている人向けの「支え手版」(2025/2/17-3/7)の2つがあり、実際に働いたり、地域の人と交流したりしながら、自分に合った働き方を見つけられるイベントです。

 

本記事では、産地のくらしごとの参加者と、受け入れ事業者の方の対談をご紹介します。

 

 

 

「産地のくらしごと」を体験しているひと: 松原さん


出身:香川県
職業/所属:大学院生 大学では漆工芸を専攻。
経歴:香川の高校から富山の大学へ進学。学問として漆を8年学び、福井や鯖江に関わりはないものの、産地の暮らしごとに参加。
趣味:顕微鏡を覗いたり、微生物の絵を描くこと

 

 

「産地のくらしごと」を受け入れている企業のひと:辻田知彦さん


出身:福井県越前市
職業/所属:辻田漆店にて製造、管理、総務など全ての業務を担当
経歴:県外の大学を卒業後、県外の商社にて営業職として勤務。
2014年に福井県へUターンし、県内で事務職に就く。2018年に家業である「辻田漆店」を承継。現在は、先代が大切にしてきた伝統的な漆の扱い方や、関係者との信頼関係を守るべく、家業に対し誠実に取り組んでいる。
趣味:ランニング

 


 

地域に、鯖江に「くらしごと」参加者が来ること


ーー「支え手就職版トライアルステイ」に参加しようと思ったきっかけは?

 

きっかけは大学の先生の紹介

「大学の先生に就職活動の相談をしているときに、ものづくりの産地で就職支援をしている場所があると教えてもらいました。そのときはすでにイベントが終わっていたんですけど、興味が湧いてRENEWのInstagramをフォローしたんです。そうしたら、ちょうど情報が流れてきて、それを見て参加を決めました。」
もともと情報を見つけたのは偶然でしたが、説明会が終わった後に知り、詳しいことを知らないまま登録しちゃったんです。その後の面接で、ようやく詳細を知ることができました。笑」

 

事業者としても想定外の出会い

迎え入れる側である辻田さんも、実は以前から参加のタイミングを考えていたといいます。
「去年も話をいただいたんですけど、当時は社の改修工事がまだ終わっていなくて、受け入れ体制が整っていなかったんです。せっかく来てもらっても、ちゃんとした環境がないと申し訳ないと思っていました。それで、受け入れの準備が整ったタイミングで、ぜひ参加したいと思いました。」

 

ただ実際に参加者が決まるまではどんな方が来るのか、具体的なイメージはできていなかったそうです。

 

「正直、松原さんのような方が来るとは思っていませんでした。彼女が来ることを知った瞬間に、いろいろな可能性が一気に広がったんです。改修も含めぴったりのタイミングで、必要な環境が整ったときに参加してくれました。想定していた以上の出会いでした。」

 

ただし、その期待をあまり表に出さないようにしていたとも。
「いろいろ考えすぎると落ち着けなくなるので、まずは環境を整え、自然な流れで受け入れるようにしました。笑」

 

 

ーーいま実際どのように働かれていますか?

 

松原さんのとある1日 〜漆店での仕事の流れ〜

くらしごととして、リアルな業務を体験している松原さんは、日々の仕事の中で漆の奥深さを学びながら、職人としての経験を積んでいます。ここでは、松原さんの1日のスケジュールを通じて、辻田漆店での仕事の流れをご紹介します。

 

8:30 出社 


〜10:00 漆詰め

 

漆の詰め作業では、精製した漆を容器に移し、適切な保存状態に整えます。漆は空気に触れると固まる性質があるため、手際よく丁寧に扱うことが求められます。松原さんは、作業中の道具の使い方や保存のコツなど、実践を通じて学びを深めています。


〜12:00 事務作業、外回り

 

午前の後半は、事務作業や外回りの時間。請求書の作成や納品準備など、細かい事務作業も職人の大切な仕事のひとつです。また外回りでは、漆を納品したり、請求書のやり取りを直接行なったりと、業務の信用を保つ大切な機会にもなります。


〜13:00 昼休憩

 

お昼休みは、職場の方と談笑したり、外の空気を吸ってリフレッシュしたりする時間。職人の世界は集中力が求められるため、オンとオフの切り替えも大切です。


〜15:00 漆詰め(午後の作業開始)

 

午後の作業も漆詰めからスタート。漆の管理は一日の中でも特に重要な仕事の一つ。午前中と同様に、漆を丁寧に扱いながら、無駄が出ないよう慎重に進めます。


〜17:00 事務作業、出荷

 

午後の後半は、出荷作業や事務作業をこなす時間。注文を受けた漆の出荷準備を行い、品質を確認しながら丁寧に梱包します。お客様に最高の状態で漆を届けるために、細かい部分まで気を配ることが大切です。


17:00 退勤

1日の仕事が終わり、職場を後にする時間。漆に触れながら、少しずつ知識や経験を積み重ねていく松原さん。日々の業務の中で、漆の奥深さを知り、次のステップへと進む準備を整えます。

 

体験的なインターンではなく、リアルな日常生活をイメージできることもくらしごとの魅力であることが分かるスケジュールです。

 

 

ーー実際の業務の中で驚くことはありましたか?

 

事業者の予想を超えた化学反応

実際に勤務を始めた松原さんについて「思っていた以上の影響を与えてくれています」と辻田さんは語ります。


「私がいつも当たり前のように働いている場が、松原さんがきてくれたおかげでどれだけの可能性を持っているのか。改めて実感しましたね。」


想定外の発見—漆職人の視点から見た新しい学び

辻田さんは、今回の参加者である松原さんについて「漆についてとてもよく知っている」と驚きを語りました。通常、漆の扱いや特性を知らない人が多いため、最初の説明が必要になりますが、松原さんはすでに漆に触れた経験があり、その前提が不要でした。また、ただ触れたことがあるだけでなく、自身で作品を作っていたことから、道具の扱いも素人とは一線を画しているといいます。


さらに、松原さん自身が漆の作業を体験しながら「こんなことができるかも」と、自ら新たな可能性を見出していることも想定外でした。通常、受け入れ側が「どんなことを体験してもらおうか」と考えますが、松原さんの場合は逆に「私ならこれができるかも」と発展的に考えている点が新鮮に写ったそうです。

 

今までの学びを実感し、暮らしの中で実践できる環境

松原さん自身も「大学で学んできたことが、ここで活かされていると実感できた」ことが驚きと語ります。普段の学びの場では、上には上がいる環境で、自分の知識や技術を過小評価していたが、ここでは「道具の使い方が上手いね」と言われるなど、自分の成長を認識する機会になったという。


はじめて触れる職人の思考

現場で経験をつむ中で驚いた学びとして、職人は「漆の質をどう生かすか」を考えることが重要ということがあったそうです。「職人さんたちは、ただ漆を塗るのではなく、それぞれの漆の個性を理解し、それを最大限に引き出そうとしているんです。そこがとても衝撃的でした。」
実際の仕事の中で、その考え方を学ぶ機会は些細な瞬間にあったという。


「例えば、お客様のもとに漆を届けに行くとき、辻田さんが「漆の仕上がりはどうでしたか?」と毎回フィードバックを聞いているんです。それを次の調合や技術に活かしているのを間近で見て、「職人の仕事って、お客様との対話で成り立っているんだ」と気づきました。」

 

 

ーー鯖江に来て、今後の働き方やキャリアの考え方に変化はありましたか?

 

3週間、自分の作業を止める不安とそこから得られたもの

「いち学生として3週間を費やすことには不安がありました」と語る松原さん。
しかしその不安が消えるほど、来てからは学ぶことが多かったといいます。


「学校では学べない漆を適切に扱うための細かい技術(ヘラの使い方、漆の保存方法)や漆を無駄にしないための管理の仕方、実際に職人たちがどのような考えを持って仕事をしているのかなど、教科書では学べない現場ならではの知識をたくさん得ることができました。」


漆への興味から、漆に関わる「人」への興味へ

そして辻田さんと業務を共にする中で、漆という素材そのものへの関心が、漆に携わる「人」への興味へと広がっていったそうです。


「この『くらしごと』に参加するまでは、漆を学んではいたものの、漆関連の仕事に就くかどうかは決めていませんでした。でも、実際にこの場で働く人々と関わることで、その魅力や価値観に触れることができ、将来の選択肢がぐっと広がりました」


漆を知るだけでなく、それを支える人々の生き方や考えに触れることで、新たな視点が生まれる。そんな3週間になったようです。

 

 

ーー支え手ってどういう役割だと思いましたか?

 

いつも必要とされること——考える“支え手”の役割

 

必要以上のことをせず、いつも必要とされる存在でいたい

 

「僕自身、もともとは違う仕事をしていて、40歳でこの世界に入りました。前職でも感じていたことではありますが、商売を行ううえでコミュニケーションはとても大事。相手の顔を思い浮かべ、いつも必要としてもらえる存在でいたいです」


さいごに

松原さんは、もともと漆という素材そのものに関心を持っていましたが、実際に職人や地域の人と関わることで、「漆を支える人々の生き方や考え方」へと興味が広がっていきました。これは、ただ技術を学ぶだけでは得られない大きな気づきだったのではないでしょうか。


一方、受け入れ側の辻田さんも、参加者を迎え入れることで「自分たちが普段当たり前にしている仕事の価値」を改めて実感し、新たな可能性を感じたと語っています。


働くことは「技術を学ぶこと」だけではなく、「誰と、どのように関わるか」という視点も大切です。今回の対談から見えてきたのは、職人の世界もまた、人と人との対話や関係性の中で成り立っているということ。そして、「支え手」としての関わり方にも、無限の可能性があるということです。

 

これから「産地のくらしごと」に参加する人たちにとっても、新しい視点や価値観と出会い、自分なりの未来を描くきっかけになることを願っています。

 

 

 

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産地のくらしごとと、暮らすひと。 vol.2 【体験レポート】はこちらから

 

産地のくらしごとと、暮らすひと。 vol.3 【体験レポート】はこちらから