産地のくらしごとと、暮らすひと。 vol.3 【体験レポート】
ー 都市から鯖江へ移り、鯖江を観光で支える人 編ー
※この記事は、2025年2月に執筆された記事です。
「産地のくらしごと2025」は、福井県越前鯖江エリアで開催されるお試し就業プログラム。ものづくりの仕事に正社員として挑戦したい人向けの「作り手就職版」(3/10-3/13)と、複業や移住を考えている人向けの「支え手版」(2/17-3/7)の2つがあり、実際に働いたり、地域の人と交流したりしながら、自分に合った働き方を見つけられるイベントです。
本記事では、一般社団法人SOEにて広報業務を体験している中野さん(通称:ぬー)と、
実際にSOEで勤務をしているはるちゃんの対談をご紹介します。

「産地を支えている」移住したひと:一般社団法人SOE 宮藤遥香
出身地: 神奈川県茅ヶ崎市
学歴: 大学で英文学を専攻。文化や英語に興味を持っていた。
キャリアの転機: 大学4年生でコロナが発生し、予定していた海外留学がキャンセル。
その際に文化、アート、デザインに興味を持ち、大学卒業後にデザインの専門学校へ進学。
経歴: 都内のグラフィックデザイン会社に新卒で入社。業務のかたわら「越前鯖江デザイン経営スクール」に参加し、鯖江や福井に触れる機会を得る。そして福井の地に興味を持ち、移住。鯖江歴は約1年。

「産地のくらしごと」を体験しているひと:中野裕輝
出身地: 新潟県小千谷市
学歴: 大学で経済学を専攻。地方や中山間地域の経済について専攻。
経歴: 新卒でエンターテイメント企業に入社。ミュージアムの企画や運営、営業として従事。趣味で訪れたRENEWをきっかけに鯖江という場所に興味を持つ。
くらしごと参加の決意: 都内で働きながら、地方と関わる方法はないかを見出すべく参加
地域に、鯖江に来るまでのこと
ーーまず、ぬーさんへ聞きます。「支え手就職版トライアルステイ」に参加しようと思ったきっかけは?

営業・企画として働く中で感じた違和感
東京で社会人として働いていたぬーさん。営業や企画の仕事を通じて経験を積んでいましたが、次第に「自分が本当に大切にしたいもの」「熱を持って接したい商材」が見えづらくなってきたそうです。
「仕事に対するモチベーションが少しずつ薄れていって、このままでいいのかと考えるようになったんです。30代、40代に向けて、自分が本当に価値を感じられるものを探したいと思いました」
そんなタイミングで見つけたのが、今回の 『支え手就職版トライアルステイ』 でした。
地域に飛び込んで、ものづくりを支える経験を
このプログラムでは地域に深く関わりながら、ものづくりを支える仕事を体験できます。「地域に飛び込んで、実際にものづくりの現場に触れられる経験ができる。自分が探していた“本当に価値を感じられるもの”を見つけるきっかけになるかもしれない、と思ったんです」
現在、ぬーさんは実際にこのプログラムに参加し、地域との新しい関わり方を模索しています。
鯖江に来て、おもうこと

ーーものづくりの現場を体験して思うことはありますか?

現場を通じて教わった「ものの良さを知ること」
移住前は東京でデザインの仕事をしていたはるさん。当時の上司から「モノの良さをしっかり見ることが大切」と言われ続けていましたが、当時はその意味がよく分からなかったと振り返ります。
「何をどのように見ればいいのかが分からず、漠然とした感覚で仕事をしていました。でも実際にものづくりの現場に触れることで、見え方が大きく変わったんです」
リアルな知識が増え、違いが分かるようになった
鯖江には漆器やメガネなど、職人の手仕事によって生まれる製品が数多くあります。移住したあとは東京では意識していなかった「漆器の色の違い」や「素材の風合い」など、モノに実際に触れることで理解が深まったとはるさんはいいます。
「今までは気にも留めていなかったような細かい違いが、自然と目に入るようになりました。実際に手に取る機会が増え、観光客に紹介する機会が増えたことでリアルな知識として身についてきました」
職人の手仕事と、地域の温かさに触れて気付いたこと
さらに鯖江での暮らしを通じて「ものづくりの背景には、人の温かさがある」と実感することが増えました。
「職人さんたちが手仕事で丁寧に作っているからこそ、そこに込められた思いや技術が伝わってくるんですよね。それに、日常生活の中でも、例えば近所の職人さんが野菜を分けてくれたりと、地域の温かさを感じる場面が多いんです」
現場での経験を積むことで、はるさんのものづくりに対する視点や価値観が大きく変化したことが伝わってきます。

「働く人の目の輝きが違う」——地域で感じた仕事への向き合い方
まだ1週間、それでも感じた大きな違い
この地域に来てまだ1週間あまり。すべてを理解するには時間が足りないけれど、それでも強く感じたことがあると、ぬーさんは語ります。
「東京で働いていたとき、仕事に対して目を輝かせることは難しいと感じていました。でも、ここで働く人たちは目がキラキラしているんです。はるさんをはじめとした地域を支えるひとが、目の前の仕事に夢中になって取り組んでいる様子を多く見かけます。これはかなり衝撃的でした。」
「誰かのために働く」意識が生む、モチベーションの違い
「働く中でモチベーションを保つことや、誰かのために仕事をする意識がないと、あの輝きは生まれないと思います」
ものづくりを支える人々は、単に作業をこなしているのではなく、自分の仕事に誇りを持ち、誰かの役に立つことを意識しながら働いている。その姿勢が、東京で感じていたものとはまったく違っていたのです。
「ここにいる人たちは、自分の仕事に価値を感じながら働いている。その違いが、目の色の違いとして表れているのかもしれません」
地域を支える人々の姿勢が、ぬーさんにとって新たな気づきを与えてくれたようです。
ーー鯖江に来るまでの不安はあった?実際に来て感じたギャップなど


「孤独を感じることが少ない」——はるさんが鯖江で感じた安心感
初めての一人暮らしに感じた不安、移住者の多さ。そしてつながりを感じられる環境。
「正直、鯖江に来ること自体に大きな不安はありませんでした。ただ、一人暮らしが初めてだったので、そこの緊張が大きかったです」
しかし、実際に暮らし始めてみると、そんな不安はすぐに解消されたとはるさんは言います。
「この地域の特徴でもあると思うんですけど、シェアハウスがたくさんあったり、移住者の方が多かったりするので、顔見知りの人が本当に多いんです。そのおかげで、孤独を感じることがほとんどありませんでした」
人との距離が近く、温かいコミュニティ
さらに鯖江で出会う人々の温かさも、大きな安心につながっているといいます。
「ここにいる人は本当にいい人ばかりなんですよね。初対面でも変に警戒することなく、自然に会話ができる。嫌な感じで詰めてくる人がいないというか、心地よい距離感で接してくれるんです」
初めての一人暮らしに不安を抱えていたはるさんでしたが、鯖江の人々の温かさや、移住者同士のつながりの強さのおかげで、安心して新生活をスタートできたようです。

不安を抱えて飛び込んだ3週間
いっぽう、ぬーさんは鯖江に来る前に大きな不安を感じていたそうです。
「僕自身は、はるちゃんとは違ってめちゃくちゃ不安でした。3週間、一人で福井に飛び込むということ、社会人として限られた時間を有効に使うことはすごくドキドキしましたし、『この3週間を無駄にしちゃダメだな』という思いが強かったです」
移住者を受け入れる地域の温かさ
しかし実際に来てみると、その不安は消えていったと言います。
「まずは本当に孤独を感じることが少なかったですね。同じ“くらしごと”のチームメンバーと想いを共有できるのもありましたが、それ以上に、SOEの皆さんや地域の方々が、移住者の受け入れに慣れているんだなというのを感じました」
新しい環境に身を置くことへの不安とは裏腹に、地域の人々の温かい歓迎に支えられ、安心して過ごせたようです。
美味しい食事と豊かな時間
そして、鯖江の魅力のひとつとして、食の豊かさも挙げていました。
「何より、ご飯も美味しいし、お酒も美味しい。こっちに来てちょっと太っちゃうくらい、幸せを感じています」
不安を抱えて飛び込んだ3週間の滞在。しかし、そこには思いがけない温かさや充実感があったようです。
ーー支え手ってどういう役割だと思いましたか?


「面白い」をそのまま伝える——考える“支え手”の役割
自分の魅力を伝えるより、面白さをシェアしたい
「そもそも私、自分のこととか自分の魅力みたいなものを誰かに伝えたいとか、広げたいって思いが正直なくて。むしろ、何かを“面白い”って思う沸点がすごく低いんです。『わっ、この人めっちゃ最高じゃん!』って思うことが多いんですよね」
彼女にとって支え手としての役割は「純粋に面白いと感じたものをそのまま伝えること」でした。
シンプルに、感じたことを伝えていく
「日本人観光客や海外のゲストの方に魅力を伝えることが私の仕事ですし、感じたことをそのまま伝えることこそが支え手なのかなと思っています」
はるちゃんの言葉から伝わるのは、地域の魅力を大げさに飾るのではなく、感じたままに伝えることの大切さ。彼女の素直な視点が、鯖江の産業や人の魅力を支える力になっているのかもしれません。

「支え手」とは、自分ごととして向き合うこと
「産業を守る」だけじゃない、本当の支え手の在り方
ぬーさんは産地に来る前、「支え手」とは、伝統産業を絶やさないためにお手伝いをする役割だと思っていました。しかし、実際に現場を訪れ、生産者や工場の方々と接するうちに、その考えは大きく変わったと言います。
「支え手として大切なことは、本当に“自分ごと”のように生産者の方々と共創することなんだなと。他人ごととして接するのではなく、関わる産業や人を深く理解し、共に考え行動することこそが支え手の心持ちなんだと感じました。」
地域に根付く“支え手”の姿勢に驚き
ぬーさんが特に驚いたのは地域の支え手たちは、生産者の名前や顔、性格までしっかり理解していることでした。
「東京では名刺を管理しながら多くの方と接していましたが、そこまで深く相手を知ることはありませんでした。でもここにいる支え手の方々は、相手のことを深く理解した上で、どうすれば産業が盛り上がるかを考え、業務に取り組んでいる。その姿勢が本当に素晴らしいと思いました。」
鯖江で、東京ではたらくということ
ーー同世代の2人、今後はやってみたいことや叶えたい姿はありますか?

想像していなかったキャリアへの歩み
はるさんは、大学時代には今のキャリアをまったく想像していなかったと言います。「まさか鯖江に来るとは思っていなかったし、こういった仕事をするとも思っていませんでした。」
しかし、今はまちづくりや人の流れ、グラフィックデザインや文化といった分野に強く関心を持っており、この分野を高めることができる場がいまの環境だといいます。
まずは目の前のことに全力を尽くす
「これからの2、3年は、とにかく目の前のことを全力で頑張ることを追求したいです。今は将来のことを細かく決めすぎず、まずは実践の中で経験を積み、学びを深める時期だと感じています。」
「前向きな余白」を持ちながら未来を考える
「4年目以降はまだ未定ですが、それも“前向きな余白”として楽しんでいます。」
はるさんは今後のキャリアを明確に決めすぎず、その時々の気持ちを大切にしたいと考えています。
「もしかしたら、2、3年後には留学したいと思うかもしれないし、新しいやりたいことが浮かんでくるかもしれない。その時にまた考えればいいかなと思っています。」

地方と東京を繋ぐ形を見出す
「東京で働きながら地方に関わる姿を模索しています。現状は移住は難しいですが、どうにかして地方と関わる方法を見つけていきたいです。」
自分の強みを生かした形で地域に貢献したい
デザインといった技術的な業務ができない自分がどのような形で地域に貢献できるのか、という思いを持っています。
「東京にいながらでも、地方の土地に関わりたいという気持ちはあります。自分の得意な分野を生かし、どうにかそれを形にできる方法を探していきたいと思っています。」
地域と自分のサイクルを作ることが目標
ぬーさんにとっての今後の目標は、日常から得られる知識や学びを地域に還元できるようなサイクルを作ること。
「福井や地方にいないからこそ得られる知識や学びもあると思っています。それを活かし、地域に還元できるようなサイクルを作れたらいいなと思っています。」
ーーどういう人にこの街に来て欲しいと思う?

目的を持ち、悩みを抱えた人たち
「楽しみたいことや目的が明確な人」そして「悩みを抱えている人」だと思っています。
「目的があって、悩みを持っている人がこの町に来るといいと思っています。実際、町に来た多くの人が悩みを抱えた状態で来ていて、それが町での成長や学びにつながっていると感じます。」
「この町には、仕事の働き方や人との関わり方に取り組んでいる素晴らしい方が多いです。悩みを持っている人にとって、そういった取り組みを学べる場として非常に価値があると思います。」
都会とは異なる価値観に触れられる場所
都会での生活と比べて、この町では「自分のことだけではなく、地域や他者のために働く意義を感じられる」と実感しています。
「都会では年収やスキルばかりを考えている人が多かったですが、ここでは仕事が町のためや他者のためにあるべきだと改めて感じることができました。」
そのため、悩みを持ち、自分の働き方を見直したい人々に、この町に来てほしいと思っています。

悩んだらまず飛び込んで欲しい
「はるちゃんと同様、「悩んでいる人々」がこの街に来るべきだと考えています。
ここには、悩みや疑問を解決するヒントが街中に転がっているように感じます。」
感覚を刺激される場所での気づき
都会にいると「匂い」や「自然」を感じにくいことが多いと感じていますが、この町では豊かな環境があり、感覚を研ぎ澄ますことができると感じています。
「都会では空気が無臭に感じることが多いですが、この町に来ると田んぼの匂いやご飯の匂い、空気の匂いなどを全身で感じられます。そういった自然の中で自分がいま何をしたくて、どう人生を進めていきたいか?というヒントを見つけることができる場所だと思います。」
さいごに
地域に飛び込むことは、未知の環境に身を置くこと。最初は不安もありますが、その土地の文化や人とのつながりを通して、新しい価値観や気づきを得ることができます。
今回の対談を通じて、鯖江で働くこと、暮らすことのリアルな一面が伝わったのではないでしょうか。ものづくりの背景には、職人の想いや技術があり、それを支える人々の情熱があります。そして、その熱量に触れることで、働くことへの向き合い方が変わる瞬間があるのかもしれません。
「産地のくらしごと」は、ただ仕事を体験するだけでなく、新たな視点を得たり、未来の働き方を考えるきっかけになる場です。都市から地方へ、一歩踏み出すことで見えてくる景色がある。そんな体験を、あなたもぜひ味わってみませんか?
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