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伝統工芸士・指物師の覚悟と信念【小柳箪笥】

RENEWスタッフとして様々な産地を訪れ、つくりてとしての想いや背景を聞かせてもらってきた。そのたびにわざとらしく聞いた質問がある

「作品に魂を込める瞬間はいつですか?」

職人はシャイな方が多い。大抵の方は照れ隠しなのか、はにかみながら
「そんなこと意識していないよ」と答える。


そんな中、小柳箪笥四代目・小柳 範和さんはいともたやすく魂を込める瞬間について明言した。伝統工芸士として、指物師としての信念と覚悟をまざまざと見せつけられた瞬間だった。



越前箪笥とは

江戸時代後期に技法が確立された。独自の指物技術によって組手加工し、鉄製の飾り金具や漆塗りで装飾した重厚なつくりが特徴。
越前箪笥には、近郷の伝統工芸の技術が活かされている。まず飾り金具は越前打刃物。愛らしいハート型のくり抜きが施されており、これは「猪目(いのめ)」と呼ばれる日本古来の文様で、神社やお寺では比較的よく見かけるもの。但し、和箪笥の装飾意匠として用いられることは他の産地ではほとんどなく、越前箪笥の特徴となっている。また、独特の風合いと丈夫さをもたらす漆塗りは、越前漆器の技術。平成25年に、新たに国の伝統的工芸品に指定されたばかりだが、その技術には越前打刃物や越前漆器の職人技が融合している。



指物師とは

釘などの接合金属を用いずに、キリやケヤキなどの木同士を組み合わせて家具類をつくる。木を指し合わせるほか、彫物、挽き物などの技法も駆使しながら、小型の茶道具から大型の調度品まで幅広い製品を作っていく。できあがる製品には、巧妙に考えられたワザが息づき、組み手が見えない。また、木目の美しさを引きだしつつも、数十年使ってもらえる家具類を製作するために、将来起こりうる木の反りや色合いの変化などを予測。こんな風にしてほしいという顧客からの要望にも的確に応える。



小柳簞笥について

店舗の扉が開いた瞬間にふわっと杉の香りが立ち込めた。居心地が良くどこかほっとして懐かしさを感じさせる香りだ。白を基調とし全体的に明るく清潔感があり整然とした店内。ふと見回すとその様相にどこか似つかわしくない重厚感のある簞笥が鎮座している。ここが箪笥店であることを再確認した。
一見するとおしゃれな雑貨屋さんのような店内


傍らに越前箪笥

店の奥から人柄の良さそうな男性が出てきた。
小柳箪笥四代目・小柳 範和さんである。

「歴史や文化を語らずして伝統工芸は語れない」

そう切り出した小柳さんは物腰の柔らかそうな見た目に反し圧倒的な熱量を持ち合わせている。背筋が自然と伸び、前のめりになって話を聞き入った。



「モノ」に込められた意味や価値を伝える使命

店内には越前簞笥の他にも培った技術を生かした多種多様な商品が置いてある。小柳箪笥独自のブランド【kikoru】の商品だ。例えばコースター。人と人との良縁・円満な家庭を願う「七宝」の柄がモチーフになっていたり、家庭円満・平凡な暮らしへの願い「青海波」などどこかで目にしたことはあるが、意味まで知らないモノ。失敗から始まる成功体験をコンセプトとした積みにくい積み木【積めん木】など
ただ見たことのある柄、ではなく込められた意味を伝える使命がある」
と語ってくれた。
七宝柄のコースター。小柳さんの幸せを願う気持ちが込められている。

また、オーダーを受けて作成するのも小柳箪笥の特徴。

婚礼の嫁入り道具として依頼があった際は、お父様、お母様、娘様からヒアリングし、それぞれの要望を取り入れ形にしたそう。
「県外にお嫁に行くんだから福井の伝統工芸である越前箪笥の金具を付けた箪笥にしたい」
というお父様の要望に対し、娘様は
「シンプルな方がいい」
という正反対の意見。
結果として金具は極力少なめに、でも越前箪笥らしく手づくりの分厚い金具を真綿で焼いて独自の焼き漆でマットな質感に仕上げ、2人の要望を見事に形にした。
「お着物が沢山あるんだけど、引き出し一段にあまり重ね置きたくない」
というお母様の要望には、引出を通常の深さより浅めにしてそのかわり1段増やした。
「和室ではなく洋室に置く事になるので和テイストな桐箪笥にしたくない」
という娘様の要望には、モダンな外観にするため、砥の粉仕上ではなく拭き漆仕上げを施した。
他にも箪笥を浮かす事で、お掃除ロボットなども掃除がしやすく、デザイン的にもカッコイイ足付きにしたりとどれも定形の越前箪笥の概念を覆すものばかり。
しかしながら小柳さんはただ要望を取り入れることに重きをおいているわけではない。せっかくならと、お嫁に行く娘さんのために、お父様に製作の一部を携わって頂くことを提案。お父様もこれを快く了承し金具の一部分を一緒に仕上げたそう。
【大切に育てた娘さんのためにお父さんが一生懸命にお嫁入り道具をつくる】
そんな姿を見て金額以上に大切な「価値」を見つけた小柳さん。
「伝統を守ることも必要だけどこだわりなくやっていくことが重要。お父さんの気持ちが入るのが大事。値打ちをどこに持っていくのか。ものづくりを通じて伝える。」
感情が高ぶった瞬間だった。
制作された簞笥。小柳さんと依頼者ご家族の想いの結晶。



「魂を込める」ということ

小柳さんが作る越前箪笥は決して安いものではない。理由は単純で「手間ひまがかかっているから」だ。先述した通り、越前簞笥が完成するまでの工程は膨大なもので技術力の結晶だ。そのひとつひとつを手を抜かず、自分が納得いくもの、そしてお客様に愛してもらえるものを作るためにはどうしても手間暇がかかりその分値段が高くなる。しかし小柳さんは
「手間暇かけているということはそれだけ魂を込めているということ。そうするとゴミにならない。単なる中古品ではなくアンティーク、骨董品になっていく。それこそが伝統工芸たる所以。」
あまりにもかんたんに言い放つ様に驚きを隠せなかったが、それだけの自信とプライドを持って魂を込めている小柳さんの姿はまさに職人そのものだ。
必死になって積めん木を積むスタッフに「独創性が足りないよ」と小柳さん。この一言に小柳さんの職人としての想いを感じた。
独創性を爆発させるRENEWスタッフ



独自の視点で伝統工芸の未来を切り拓く。

ファストフード、ファストファッション、日用品や家財なども【ファスト化】がどんどん進んでいる。
しかしながら小柳さんのすごいところはこういった【ファストアイテム】にも敬意を評しているところにある。北欧の有名家具屋を例に出し、
「お客さん自身に作らせることでその商品に愛着をもたせ、魂を込める作業をさせている。自分で作らせることで合理化を進め、それを魂を込めることに変えている。うまいなーと関心する」
この姿勢こそが小柳さんの職人としての創造性を高めているのかもしれない。すべてのことに意味を持たせ、考え、まずは行動する。伝統工芸士を通じ、その生き様を見せてくれた小柳さん。工芸に興味のない方もきっと心に響く言葉や生き方が見つかるはずです。



RENEW当日は『かわいい箪笥のペンスタンドをつくろう!』と題し、越前箪笥づくりの技術を学びながらペンスタンドをつくるワークショップを開催。飾り金具の部分は越前和紙でできており、カラフルな和紙で自分好みの箪笥に仕上げられます。お子様も一緒に楽しめそうです。

日程:10月12〜14日10:00~17:00 (いずれも最終受付時間は15時30分まで)
料金:2,000円+税
所要時間:30分~1時間
※飛び入り参加可能
完成イメージ。私も参加したい…。


<出店者情報>

小柳簞笥
〒915-0824 福井県越前市武生柳町10-7
TEL:0778-22-1854
公式HP:http://oyanagi-tansu.jp/
紹介ページ:https://renew-fukui.com/2020/kanri/exhibitor/echizentansu-oyanagitansu/

文:河野 哲也