地域に「よりそう」ものづくり。まちのめがね工房のいま【谷口眼鏡】 | RENEW 2022

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地域に「よりそう」ものづくり。まちのめがね工房のいま【谷口眼鏡】

「めがねのまちさばえ」。

RENEWを観に来られる方の多くは、どこかでこの言葉を目にするはずです。

それもそのはず、鯖江市は全国の眼鏡フレームにおける90%以上を生産する、いわば「眼鏡の聖地」なのです。



鯖江市に来た人は必ず見かける、眼鏡のロゴマーク

 

めがねのまちができるまで

もはや定番ともなりつつある「鯖江=めがね」のイメージ。しかし、そもそもなぜ鯖江は眼鏡の一大産地となったのでしょうか。

その歴史は、100年以上前まで遡ります。

もともと16世紀頃から眼鏡は日本に存在していましたが、その需要が一段と高まったのが明治時代。教育の普及や印刷技術の発達で、文字を読むために眼鏡を必要とする人が増えていたのでした。

そこに目を付けたのが、増永五左衛門(ますなが・ござえもん)という人物です。

彼は、雪で冬場に活動ができなくなる福井の農村のために、副業で作れる品物を探す中、眼鏡に行き着いたのです。

 

めがねミュージアムにある増永五左衛門の像。 凛々しい顔立ち

 

五左衛門の尽力により、1905年には福井(福井市生野町)で眼鏡枠の製造が始まります。勉強熱心な福井の人びとは、すぐにその製法を覚え、あっという間に産地が形成されたのだとか。

さて今回は、そんな産地を支える老舗の眼鏡メーカーにお邪魔しました。

 

 

河和田の眼鏡屋さん・谷口眼鏡へ

今回お邪魔したのは、「谷口眼鏡(たにぐちがんきょう)」です。

出迎えてくれたのは、社長の谷口康彦さん。眼鏡づくりに40年携わるベテランです。



 

谷口眼鏡は、1957年に谷口さんの父である故・文一さんが、鯖江市河和田町にて工場を創業しました。 現在は、眼鏡の販売もおこなっています。

 

現社長の谷口康彦さんは、「持続可能な地域づくり」のため、RENEWの実行委員長も務めています。

早速、工房の中を見学させてもらいましょう!

 

素材のはなし

最初に伺ったのは、眼鏡の基本のキ、「素材」の話です。

谷口眼鏡はプラスチック枠の眼鏡を主に扱っていますが、プラスチックと一口に言っても、その種類は実はいくつかあるんです。

特に今の主力は「アセテート」。もともと眼鏡は、アセテートと同じ原料であるセルロイドが用いられていました。しかし燃えやすい難点があったため、現在では燃えにくいアセテートで作られています。


アセテート素材の眼鏡枠がたくさん

 

「アセテートは燃えにくく、ダイオキシンも出ません。また70度くらいで何度でも柔らかくなるため、その都度、人の顔に合せて加工しやすいんです」

と谷口さん。

「人の顔に合わせて加工」というのがポイントのようです。



スタッフも、実際に素材を手に取って見せてもらった

 

谷口眼鏡は、2017年にコーポレートメッセージ「よりそう、めがね」を掲げました。

この言葉には、付け心地の良さを追及するということはもちろん、作り手と買い手がつながり、気持ちの上でも長く付き合っていきたいという谷口眼鏡の考え方が詰まっています。

この素材も、その理念にぴったりのものなのかもしれません。

 

眼鏡ができるまで

続いて、眼鏡の工程を見せてもらいましょう。

実は、鯖江の眼鏡製造はとっても細かく分かれた分業制。200もある工程を、様々な工房で分けて担当します。古くは、先ほども登場した増永五右衛門の時代にとられた「帳場制」という生産体制に由来するのだとか。

谷口眼鏡では、そのうち3分の1程度を担っています。


この「ガラガラ」のような機械で、眼鏡のパーツが仕上がっていく

 

まず見せてもらったのは、くじ引きの「ガラガラ」のような機械!

ここには眼鏡の部品を一種類ずつ入れ、滑らかになるように12~20時間も回し続けるのだそうです。

部品一つ一つがなめらかに繋がる着け心地の良い眼鏡にするには、長い時間がかかるようです。



眼鏡枠を磨く「バフ磨き」の作業。真剣な面持ちだ

 

さて、実際に眼鏡を作るときは、先ほどの機械で「フロント」と呼ばれるレンズを入れる全面の部分と「テンプル」と呼ばれる耳にかける棒状の部分を別に作り、最後にそれらを「丁番」でつなぎ合わせます。


しかし、丁番を付けるだけでは90度に綺麗に開かないので、やすりがけをして調整する必要が生じます。

回っている円盤は「バフ」と呼ばれる研磨用の器具。工程が進むごとに、目の細かいものに替えていくんだそうです。

 

何気なくかけている眼鏡がこんなにも緻密な調整の上で出来ているのだと知ると、感動しますね……!


指先の感覚に頼って行うバフ磨きはまさに職人技

 

眼鏡づくり、ものづくりへの思い

今回は、谷口眼鏡の工房で眼鏡の工程の一部を見せてもらいました。


しかし、ここで行う作業も全体の3分の1程度。たくさんの人が手間をかけて、一つの眼鏡を作り上げていくのだということを肌で体感することができました。


さて、そんな谷口眼鏡さんのRENEW企画では、昨年好評だった眼鏡づくりワークショップを開催します。


去年好評だった「眼鏡づくりワークショップ」の様子

 

ワークショップでは、自分の手で眼鏡を作り、半月後に完成したメガネをお送りします!

値段は一回15,000円。しかし、鯖江で眼鏡を買おうとすると2万円はくだらない中、どうしてこんなに安い値段で体験させてくれるのでしょうか……?


 

谷口さんに伺うと、こんな答えが返ってきました。



「今の時代、ただ直接モノを売るのではなく、”BtoCtoB”の情報の流れが大切です。こうしたワークショップを通じて、色々な人が鯖江の眼鏡を好きになってくれれば、長期的には産地に新しい商機が生まれます」

 

ただ目先の商売を考えるのではなく、産地や社会の10年先、20年先を考える。

直線的に経済が成長するわけではないこの時代の産地の在り方に、谷口さんは新しい解答を提示しようとしているのかもしれません。


「モノは売れなくても、好感度は売れるかな」


そうはにかむ谷口さんの静かな語り口からは、その背景にある熱い思いが垣間見えました。



 

「よりそう、めがね」。この言葉には、肌によりそう、ユーザーによりそうなど、色々な意味が込められているのだといいます。


そして谷口さんの思いの中では、この鯖江・河和田という「地域によりそう」ということも、大きな意味を持っているのかもしれません。

 

いよいよ、10月12~14日のRENEWが迫ってまいりました。皆さんも、是非産地のものづくりの魅力を肌で感じに来てみてくださいね。


 

 

<出店者紹介>

谷口眼鏡(たにぐちがんきょう)

〒916-1221 福井県鯖江市西袋町228

TEL:0778-65-0811

RENEWページ:https://renew-fukui.com/2022/kanri/exhibitor/optical-taniguchi-gankyo/

RENEW期間中の営業時間:

10月12日(土)~14日(月祝) 10:00~17:00
 

文:佐久間 弘明